頑蘇夢物語

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五〇 更にまた『此頃十首』

雨中無聊、また更に十首を作る。 此頃は何処の里も自由主義 平和主義者の粗製濫造 此頃は赤の仲間が出没し 凱旋らしく歓迎を受く 此頃の大評判は陸海の 軍人共の持逃の沙汰 此頃の世は逆まになりにけり 帽子は足に靴は首に 此頃は変った事が多くある 検非違使殿が闇の元締 此頃は芋泥棒が流行るなり 蔓を残して実を掘って行く 此頃は副食物も倹約し 鮭の一切れ二度分に食ふ...
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四九 対米従属の日本政府

米国の進駐軍は、日一日とその爪牙を現わして来つつあり。幣原内閣の成立するや否や、 去る十一日、幣原が総司令部にマッカーサーを訪問した時に、早速次の五項〔婦人解放・労 働組合奨励・学校教育民主化・秘密審問司法制度の撤廃・経済機構民主化]を申し通じたと いうことである。これは固より全くの内政干渉で、ここ迄踏み込んで指図をすれば、日本政 府は、全く米国の属国と見て...
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四八 『後此頃十首』と君側の姦

前に『此頃十首』を作る。余情未だ不尽、更に『後十首』を作る。 二十年十月十二日夕 此頃ハ藤田東湖モ松陰モ 説ク人モナク聴ク人モナシ 此頃ハ東郷乃木モ禁物ゾ 軍国主義ノ標本トシテ (中略) 此頃ノ役人共ハ哀レナリ 毛唐奴等ニコキ使ハレテ 此頃ハ日本民主主義ト云フ 鵺ノヤウナル看板が出タ 此頃ハ秋ノ夜長ニ夢ヲ見ル 日清日露戦役ノ事 此頃ハ世ヲ憚カリシ奴原ガ 自由...
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四七 ミッドウェイ敗戦の因

我等は決して眼の敵として、海軍の悪口をいうではない。むしろ悪口をいえば、陸軍の方 が、より多いかも知れぬ。しかるに海軍が長い間、日本国民を瞞ましていたことだけは、間 違いない。勝った勝ったで、遂に日本を、敗北の門前位ではない、座敷の中まで、海軍は引 っぱって来たではないか。東條元首相さえも、罷むる間際まで、海軍の実力を、余程買被っ ていたようである。これは予...
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四六  『此頃十首』とニミッツ元帥の日本海軍批判

昨夜―昭和二十年十月十一日夜―停電にて、七時頃から枕に就いたが、枕上『此頃十首』 と題して、左の通り口占した。 此頃十首 此頃は朝じゃが芋に昼は蕎麦 夜はおじやに腹が膨るる 此頃は困り果てたる安普請 雨は雨漏り風に風洩る 此頃は郵便も来ず新聞も 二日つゞきて来ぬ日さへあり 此頃は長き来し方見返りて 頬杖つきつ日を暮らすなり 此頃はいやな役者が飛び出して いや...
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四四 御退位問題、神社と国民

幣原が組閣早々、外国新聞記者へ話した要領として、放送せられたる所を聞くに、天皇陛 下は決して皇太子殿下に御譲位あらせらるることはない。また神道は必ずしもこれを廃絶せ ざるも、その弊害だけ除いて存続せしめても、差支ないと思うと語ったとある。主上に関す る一事は、正直のところ、幣原の口から初めて承わった。世間の多くの人々は、かかる事変 に際し、定めて主上には、御...
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四三 外人の見たる日本の国民性

この頃マッカーサー側が、日本の事を色々調査し、洗いざらいに、それを暴露するようだ 、これでは最早や何一つ日本には秘密なるものが存在せぬこととなった。昨日は海軍省の 中に蔵まい置きたる金塊とか、宝玉とかいうものを、兵隊で取り囲み、中に入って、それを 押収したということである。また帝室財産なども、調査の上出せという事であるから、これ も何れ世間に披露せらるる日が...
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四二 驚くべき日本上下の急豹変

予て戦争反対とか、当初より看板かかげた敗戦論者とか、また所謂る自由主義者とか、社 会主義者とか、共産主義者とかが、この際時を得顔に顔を出すは当然の事で、幣原や吉田な どが、我が世の如く振舞いたりとて、我等は別に意外とは思わぬ。ただ昨日まで熱心なる米 英撃滅の仲間であり、甚だしきは、その急先鋒であったとも思わるる人々が、一夜の内に豹 変して、忽ち米英礼讃者とな...
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四一 ミルトンと予

人間の運命なるものは、容易に前知し難きものである。寸前暗黒とは、この事であろう。 しばら 暫く予自身の狭き短かき経験について語るも、全くその通りである。予は青年時代マコウレ ーの「エッセイズ」の愛読者であり、殊に彼れの「ミルトン論」を愛読し、爾来ミルトン・ ファンの一人となった。その事は、曾て大正六年『杜甫と彌耳敦』の一書に 詳 かであれば、今ここに語る必要...
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四〇 陸海将官の濱職、下級軍人の貪欲

予は曾てソ聯の参戦や、原子爆弾は、全く敗北論者の、世間を瞞着する口実に過ぎず、こ S の二者が無きとしても、彼等は既に無条件降伏を、決心していたものと、判断していた事を、前にも幾度か記して置いた。しかるに今回偶然にも、米国月刊雑誌「コスモポリタン・ マガジン」の編輯次長ハリー・ブランデージ氏が、最近日本から帰国しての物語に、日本が 敗れたのは、原子爆弾でも、...
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三九 日本敗因の一

この頃独逸の敗因は、独裁政体に在りという事を、米国の有名なる空軍評論家、アレキサ ンダー・セヴァスキー少佐は、独逸の現状を見て、かく語っている。『独逸の主な弱点は 「ナチ」の独裁に在った。これが敗北の主因であろう。独逸主脳部の考え方は、戦争の最中、何等の進歩も見られない。その為め間もなく、聯合軍に追い越されてしまったのである。聯合国が不意討ちを喰らって、後退...
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三八 東久邇内閣打倒の二勢力

東久邇内閣を打倒したる二つの勢力は、マッカーサーと官僚である。先ずマッカーサーの 注文から語らんに、当初から東久邇内閣は、相当の覚悟を以て出で来ったるには相違がな い。しかしその注文が矢継ぎ早に出で来り、一の注文に応ぜんとするところに、次の注文が 出で、またその次の注文が出で、やがては一度に、即ち九月二十九日付を以て、洪水の如く やって来た。それは何かといえ...
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三七 真の自由主義、首相宮とマ元帥

マッカーサーも、追々とその爪を出して来た。初めから茨木童子〔酒呑童子の手下〕では なかったが、いよいよ茨木童子の本色を示して来た。この上は何人が内閣を組織しても、た だマッカーサーの御意を奉行するだけに外ならない。東久邇宮などは、それにしては聊か勿 体なさ過ぎる。幣原位が恰好であるかも知れない。元来マッカーサー及びその幕僚は、盛ん に自由という事を振り廻すが...
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三六 陛下のマ元帥御訪問まで

追々時日が経つにつけて、主上の米国二新聞記者への謁見、及びマッカーサー御訪問の内 容が、新聞紙上に暴露して来た。果然自分が予想の通り、謁見というはこの方だけの事で、 彼等は全くインターヴューであった。その形式は言語ではなく、一問一答ではなかったが、 先ず二新聞記者より、銘々の質問の個条を、前以て提出し、かくて銘々主上に拝謁し、かくて彼等に対して、襄に提出した...
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三五 日本軍人と降伏

陸軍海軍の元老ともいうべき人々、またその中堅ともいうべき人々は、如何なる心底を以 て、今日の状態を見ているか。彼等は最も年齢の若き者、最も位地の低き者を、十二分に、 若くは十五分に煽り立て、死地に就かしめた者である。しかるに彼等自身には、戦争が済ん だからとて、平気でいるは、如何なる意見であるか。中には海軍側では、大西〔滝治郎]中 将が自決したが、陸軍側では...
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三四 統制経済の失敗と食糧政策の貧弱

今ここに統制経済の得失を論ずる訳ではない。しかし余りに杓子定規に、ただ机の上で何事も規定し、それを一片の文書として交付し、それで物が出来たというような考えであるから、なかなか実際は計画通りに行わるべきものではない。この統制が行われた為めに、一口にいえば、従来日本に行われたる、一切の生活、及び経済の機構は破壊し、秩序は案乱し、運動は麻痺状態に陥った。日本の統制...
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三三 官界の流弊を抉る

再び天皇陛下のマッカーサー御訪問について一言する。その後米軍総司令部渉外局の発表によれば、マッカーサー元帥は、天皇陛下を大使館邸の居室で御迎えした。扈従者は控室に残った。マッカーサー元帥が天皇陛下との会談の内容は、発表されないとある。これで見れば儀礼上の御訪問ではなく、我々臣民ならば、所謂る召喚を受け出頭という事であったらしく、恐察せらるる。若し陛下が訪問客...
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三二 軍官を糾弾す

日本が勝つべくして勝たなかった理由の、最も主なる一に数うべきは、敵に時を稼がしめた事である。孫子が申す通り、兵の要は巧遅でなく、拙速に在りというが、況や彼は巧速、我はは拙遅では、とても勝負にはならない。日本人が機先を制したる事は、真珠湾や、マレー沖などで、その他は殆ど敵に出端を叩かれている。ミッドウェイ作戦の如きは、我が機密が先きに洩れて、敵は待伏せをし、敵...
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二九 日本の心的去勢

近頃日本人が米国人の手先となって、日本を米国化せんとする事に、これ日も足らざる有様は、只々不思議に考えらるる。今日米国人は、如何なる手段を執れば、日本が再び起ちあがって、米国に復讐が出来ぬようになるかと、それのみを考えている。その手段として、日本から立ちあがる事の出来ぬように、あらゆる物的条件を剥奪する事を努めている。武器は愚ろか、刀さえも取上げるという始末...
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二八 看板の塗替

何が驚ろいたかといえば、よくもかく手早く看板が塗替られたかと、驚くばかりである。昨日まで氷水屋であったのが、早くも既に焼芋屋となった位は当り前で、その変化の候急にして、且また手際の素早きこと、とても昔の天勝などが及ぶ所ではないと考えらるる。何が証拠といえば、新聞である。ラジオである。それによって現われたる一切の政治、社会、あらゆる現代の世相である。 日本人に...
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