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四九 対米従属の日本政府

頑蘇夢物語
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米国の進駐軍は、日一日とその爪牙を現わして来つつあり。幣原内閣の成立するや否や、 去る十一日、幣原が総司令部にマッカーサーを訪問した時に、早速次の五項〔婦人解放・労 働組合奨励・学校教育民主化・秘密審問司法制度の撤廃・経済機構民主化]を申し通じたと いうことである。これは固より全くの内政干渉で、ここ迄踏み込んで指図をすれば、日本政 府は、全く米国の属国と見ても差支ない。かかる命令は、英本国の政府たりとも、未だ曾て カナダや、濠洲や、南阿や、若くはニューファウンドランドなどの自治領には、命令したる こともなければ、命令すべき権能も持っていない。従て憲法改正も、帝国憲法に、自由主義 の新血を注入すべく、マッカーサーより示唆せられたることは、固より疑を要しない。

諺に、「霜を履で堅氷到る」という。また「唇 亡ぶれば歯寒し」ともいう。かく漸次 に、筍の皮を剥ぐ如く、剥ぎ来った時には、挙句の果は、如何になるべきか。まさか我が帝 室に向って、尊厳を冒濱するが如き事を、幣原内閣は、唯々諾々として、容認するものとは 思わぬが、やがては帝室制度に、大なるメスを加うる時期が到来することは、何人も疑うことは出来ない。但だその時に、幣原内閣が、何処まで臣子の本分を尽し得るや否や、姑らく それは、その時を俟つこととする。

「前にも言うた通り、日本的民主主義という事は、如何なる意味であるか。民主という言葉 は、君主に対する民主であるから、問題は民主といえば、民が主で、君は従であらねばなら ぬ。君主といえば、君が主で、民が従であらねばならぬ。二者その一を択ぶの外はない。英 国では、民が主にして、君は従である。そして英国では、議会の意見で、王位を廃すること も出来る。また立君制を廃して、共和制となすことも出来る。これに反して日本では、君が 主である。民が従である。議会は決して我が政体を、変更することは出来ない。また我が憲 法も、君主自身の発議を経ざる以上は、決して議会自ら改正案を出すことは出来ない。若し 果して従来の儘で進行するということならば、憲法改正の必要がない。また従来の儘で行か ず、民主的立君主義ということであれば、これは日本固有の国体とは相容れざる、正さしく 名に於ても、実に於ても、英国流の政体そのものを、鵜呑みにするものといわねばならぬ。 しかるに何れともその性質を研究せず、ただ日本流の民主主義などいう文句を製造して、お 茶を濁し、日本側に向っては、日本の政治は、君が主であるというように思わせ、内は日本 国民を欺き、外は外国人を欺くものであって、消に言語道断の沙汰といわねばならぬ。元来 日本流の民主主義などというものが、存在する筈がない。日本流は飽く迄君主主義である。 これに反して、貴族主義に対する平民主義ならば、なお訳は判かっている。即ち立君平民政治といえば、所謂る一君万民の政治ということが、明白に判かる。かくすれば、即ち日本従 来の政治が、立君平民政治を主としたるものであって、維新大改革の目的も、実にここに在 ることは、五箇条の御誓文を見ても、分明である。

(昭和二十年十月十三日午後、双宜荘にて)

●鳩山一郎氏宛書簡

謹啓昨夜御放送此ノ山中湖畔ノ板屋ニテ拝聴、御健在ノ 趣 大慶ニ存ジマス。政見ノ異 同ハ姑ク措キ、個人トシテ私ハ先生ノ「ファン」デアル。何時モ先生ノ事ガ心ニ懸ツテ、 安藤君ナドニハ御面会ノ節ハ、ヨク話ヲシテ居リマス。老生ハ皇室中心主義者デアリ、先 生ハ議会中心主義者デアル。又外交及ビ国際政策ノ上ニ於テモ、若干ノ意見ノ異同アリト 思ヒマス。然シ今日ノ場合、共産党トカ、社会党トカ申スモノガ、追々頭ヲ握ゲントスル 徴候ヲ見テハ、日本ノ前途ガ心配ニ堪ヘマセヌ。日本ノ頼ミトスルノハ第一ガ皇室デアリ マス。第二ハ人民デアリマス。此ノ皇室ハ日本ノ誇リデアリ宝デアル計リデナク、此ノ人 民ヲ保全スル為ニハ無二ノ宝デアリマス。此点ハ先生ニモ御了解が出来ルコトト存ジマ ス。社会主義者ナドハ、今日迄ハ君主制ヲ撤廃スルトハ申シマセンガ、腿テハ其処迄到達 スルモノト思ハレマス。ソレデ私ガ御願ヒハ、新自由党ハ日本ノ皇室ノ尊厳ヲ維持シ、万 世一系ノ皇室ヲ無窮ニ維持スル為メニ此際旗幟ヲ鮮明ニ願ヒタイコトデアリマス。第二ハ民主ト云フ文字ハ君主ニ対スル文字デ、ソテハ共和ト云フ字ト同一ニナルノ廣レガアルコ トハ先生モ御洞察卜存ジマス。然ルニ今日デハ日本全国民主化ノ一色デ塗潰スコトハ、如 何ニモ遺憾千万デアリマス。就テハ新自由党ニ於テハ成ベク之ヲ用ヒナイヤウニ、万一之 ヲ用フル場合ニハ「民衆」トカ「平民化」トカ云フ字ヲ使用セラレタラバ、「民衆」ハ 「寡頭」ニ対スル言葉デアリ、「平民」ハ「貴族」ニ対スル言葉デアッテ、君主ニハ何等関 係ノナイ言葉デアルカラ、ソレガ至当ト考ヘラレマス。今尚此ノ忙ガシキ世ノ中ニ、文句 ナドノ詮鑿ハ無用ト申ス人モアリマセウガ、今日皇室ノ位地ガ度 々 予トシテ殆ウキヲ見 テハ、黙止出来マセンカラ、謹ンデ先生ノ御賢考ヲ願ヒマス。御承知ノ通リ私ハ古事記一 点張リノ難有屋デモナケレバ、神憑リノ男デモナイ。私が皇室中心ヲ高調スル所以ハ、三 千年ノ日本ノ歴史ニ依テ得タル結論タルコトヲ御了解願ヒマス。終リニ臨ンデ貴党ノ隆昌 ヲ祈ルモノデアリマス。私ハセメテ貴党ノ力ニ依テ、共産主義ヤ社会主義ヲ防禦シ、彼等 ヲシテ日本ニ横行セシメザルヤウ御奮闘ヲ願フ者デアリマス。 此ノ書簡ハ只今眼病ニテ手筆スル能ハズ、友人二口授シテ書イテ貰ヒマシタ。悪カラズ御 惣亮 願ヒマス。而シテ松野安藤ノ両先生ニモ御回覧ヲ願ヒマス。 十月十四日朝

山中湖畔ニ於テ
蘇峰老人

鳩山先生

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