頑蘇夢物語

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二七 朝鮮及び台湾との別離

朝鮮について一言する。朝鮮と日本とは、地質学者の語る所によれば、従来は地続きであったが、陥没して日本海が出来、互に海を隔てて相望むこととなった。しかし日本人種と朝鮮人種とは、本来同一人種である。固より双方とも混合人種であるから、十から十まで、総てが同一とはいわれない。先ず日本の人種について語るに、ある者は今日の日本人は昔から日本に住んでいたという者がある。あ...
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二六 自嘲

裏切るという言葉は、言葉そのものからさえ不愉快である。況や事実そのものに於てをやだ。自分の一生を顧るに、自ら人を裏切った覚えは、閻魔の庁に出ても、無い事を断言し得る。これに反して、我れ自ら我れを裏切った事の余りに沢山であるのに、驚かざるを得ない。人から裏切られるさえ面白からぬに、我れ自ら我れを裏切る事の面白からぬ事は、尚更である。誰れも好んで己れを裏切るもの...
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二五 日本の地理的条件

日本国は自然の勢に放任すれば、とても自給自足は出来ぬ。豊葦原瑞穂国といって、世界第一の天恵に浴したる国であるかの如く語るが、冷静に考うれば、決してその通りではない。気候は温和であるといい得るが、国を挙げて湿気多く、外国人にとっては、決して健康地ではない。土地が豊饒であるといっても、それは部分的の事で、細長き国の中央には、それを縦断する大なる山脈が走り、時とし...
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二四 日本は侵略国に非ず

マッカーサー元帥を初め、アメリカの国論ともいうべきは、何れも日本人に敗戦を自覚せしむるということが大切である、日本人は未だしみじみ、敗戦という事を、自覚していないといい、また我国の当局及び指導階級も頻りに鸚鵡返しに、その通りの言を繰返している。しかしこれは無理の話である。日本国民には、初めから終りまで、敗戦という事実は、大本営からも、情報局からも、新聞雑誌の...
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二三 盗人猛々し侵略国呼ばわり

自分は戦争犯罪とか、戦争責任とかいう言葉が、今日通用することについて、聊か不審がある。成程捕虜虐待とか、病院船を打沈めたとか、大きくいえば、原子爆弾などを無暗に投下したる者は、戦争犯罪者といっても可かろう。しかし勝った方から負けた方を吟味して、彼は犯罪者である、これは犯罪者であるなぞという事は、如何なるものであるか。例えば角力をとるに、勝ち負けの勝負がつけば...
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二一 戦争犯罪者と戦争挑発者

ある人曰く、貴君はやがて戦争犯罪者として、米国側より引っぱらるるという評判だが、貴君の覚悟如何。予曰く、予は何等この戦争について、公私何れの方面から見ても、罪を犯したる覚えがない。しかしもし彼等が戦勝国の威力を以て引っぱるとせば、逃げもせず、匿れもせず、立つ可き処に立って、言う可き事を言う積りである。予としては、この戦争について、予が執りたる一切の行動につき...
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二〇 敗戦の原因(一一)

予は決して他を咎むるではない。唯だ自ら不明を愧ずるのみである。何やら一生を顧みて、全く 裏切られて、徒だ骨を折ったような気持ちがないでもない。予は官権に対して、民権論者であり、 貴族主義に対して、平民主義者であり。藩閥政治に対して、国民政治者であった。しかし藩閥政治 が漸く凋落して、民権論者が勝ちを制したる 暁 は、所謂る政党横暴の時代となった。せめて普通 ...
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一九 敗戦の原因(一◯)

去る九月五日東久邇首相宮の、議会に於ける施政方針御演説中に左の一節がある。 『天皇陛下に於かせられては、大東亜戦争勃発前、我国が和戦を決すべき重大なる御前会議が開 かれた際、世界の大国たる我国と米英とが、戦端を開くが如きこととならば、世界人類の蒙るべ き破壊と混乱は測るべからざるものがあり、世界人類の不幸是に過ることなきことを痛く御診念 あらせられ、御自ら明...
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一八 敗戦の原因(九)

只今第八十八臨時議会の開院式に於ける勅語を奉読した。これは平常の勅語に比すれば、極めて 意味多きものであるが、その意味について、我等不肖には、千思万考しても、領会し能わざる文句 がある。この勅語は、当然輔弼臣僚の手によって、起草せられたるものであろうと思うから、ある いは陛下の思召を、充分我等に領会せしめ得ざる恐れがあるのではないかとも思う。我等は決して 勅...
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一七 敗戦の原因(八)

近頃は日本の高位大官の人達は、国民に向って、荐りに日本が戦敗国である事を自覚せよと、国 民学校の先生が、生徒に申し聞かせる如く、申し聞かせている。しかしその人々は、これ迄「勝っ た勝った」と、国民を長い間引っ張って来た人達である。殊に本土決戦では、必ず敵を叩き潰すこ とは、尚お元兵を博多の沖や浜で叩き潰した同様である事を、固く保証していた。しかるに今日に な...
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一六 敗戦の原因(七)

今上天皇に於かせられては、むしろ御自身を戦争の外に超然として、戦争そのものは、その当局 者に御一任遊ばされることが、立憲君主の本務であると、思し召されたのであろう。しかしこれが 全く敗北を招く一大原因となったということについては、恐らくは今日に於てさえも、御気付きないことと思う。これについて我等は、決して主上に向って彼是れ申上ぐるではないが、かく主上を 御導...
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一五 敗戦の原因(六)

甚だ恐れ多き言葉ではあるが、主上には殆ど人間として、一点の非難を申上ぐ可き所なき、完全 無欠の御人格と申しても差支ないが、但だ万世を知ろしめす天皇としての御修養については、頗る 貧弱であらせられたることは、全く輔導者の罪であり、また御成長の上は、輔弼者の罪でありと申 さねばならぬ。不肖予の如きは、僭越にも、自ら身を挺して、若し輔弼の臣たる能わずんば、せめ て...
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一四 敗戦の原因(五)

本日(九月三日)棚の上の古い箱を引出して見たところ、十九年の七月頃、当所―双宜荘ーに滞 在したる頃の若干の書類がはいっていた。いま試みにその中の一、二をここに掲げて置く。 自分と東條前首相との関係については、別に語る所があるが、昨年七月一日、家族は熱海の晩晴 草堂より沼津を廻って、御殿場で予を待ち受けしめ、予は塩崎秘書を伴い東京に赴き、東條首相に 面会し、...
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一三 敗戦の原因(四)

極めて端的に申上ぐれば、今上陛下は、戦争の上に超然として在ました事が、明治天皇の御実践 遊ばされた御先例と、異なりたる道を、御執り遊ばされたる事が、この戦争の中心点を欠いた主な る原因であったと拝察する。これについては輔弼の臣僚たる者共が、最も重大なる責任があること と信じている。恐れながら、予は客観的に、歴史家として、今上陛下について一言を試みて見たいと思...
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一二 敗戦の原因(三)

話は少し前に遡るが、満洲事変は、竹藪から出た 筍 ではなくして、縁の下から畳を持上げて、 座敷の真ん中に飛び出したる筍のようなものだ。物事が筋道が通って、当り前に運べば、陸軍の数 名の佐官級の将校が、これ程の大事を仕出かす筈はない。しかるに無理に無理を加え、圧迫に圧迫を重ねた結果、勢の激する所、ここに到ったのである。それは大正から昭和の初期に至る迄の日本 の...
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一一 敗戦の原因(二)

昭和二十年九月二日、今日は愈々米国戦艦ミズーリ号上にて、聯合軍と日本代表者との降伏調印 の日である。これを前にして、重光外相は、懇々切々日本国民が、敗戦国民である事実を自覚せん ことを要望している。これは今度に限ったことでもなく、裏にも重光外相は、同様の言を為し、そ の為めに米国側では、流石に重光外相だと、讃辞を呈している。だが、我等はこれを聴いて、異様 に...
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一〇 敗戦の原因(一)

今更敗戦の理由なぞということを詮議しても、死児の齢を数うると同様で、一寸考うれば、無益 のようだ。しかし若し日本国民が往生 寂滅せず、短かき時間であるか、長き時間であるか、後に は敢て大東亜征戦頃といわざる迄も、せめて明治中期頃の日本に立ち還り、若くは立ち還らんとす る希望が、全く消滅せざるに於ては、この詮議ほど大切なるものはない。殊に不肖予の如きは、こ の...
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九 毎日新聞引退完了

さきに毎日新聞との関係を結了したと書いたが、それは自分側の考えで、相手側では、そう簡略 に行かず。尚お重役会議を開き、その決議を齎らし、高石会長が、八月二十六日大雨を冒し、阿部 賢一重役及び小松秘書を帯同し来た。予は当初何の為めに来たかを知らず。高石氏に向って、小話 の末、何ぞ御用談があるかと言ったところ、高石氏は、「実は本日重役会議の決議を齎らして、罷 り...
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八 自ら吾が愚に驚く(二)

いまその証拠として左の一通を掲ぐる。 (鈴木首相ニ与フルノ書) 鈴木首相閣下 日夕御尽菜真ニ感偏二勝へス。迂生モ年齢ニ於テハ閣下二一日ノ長アリ、仍テ老人ノ心理情態ハ 聊カ能ク之ヲ知ル。閣下ニ対スル同情ノ深厚ナルハ当然二候。 天下ノ大勢及 々 乎弊船二坐シテ大瀑布ヲ下ラントスルニ似タリ。之ヲ救済スルノ道只ター。天 ノ岩戸ヲ押シ開ラキ 至尊御出現一君万民ノ実...
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七 自ら吾が愚に驚く

耳を穿うて鈴を盗むという諺があるが、今日の事は、全くその通りである。国体擁護と降伏と を、全く交換条件として、国体の為めには、降伏などは決して高価ではない。むしろ降伏で国体擁 護を嵐ち得たのは、大なる手際であるかの如く吹聴しているが、安んぞ知らん、降伏そのものが、 既に日本国体を破壊し去ったものであって、降伏で国体を全うするなどという事の在り得る筈はな い。...
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